- Bセクションにおける短調(ト短調/イ短調)への転調と感情表現
- ロマン派の様式に基づいたトリルの実践的な演奏法
- 左手の替え指を活用したスムーズな運指と音程の安定
- 再現部におけるピアニッシモの質感とエコーの表現
- 「音の痛み」を感じさせるアポジャトゥーラ(非和声音)の歌い方
クラリネット学習者にとって避けては通れない名曲、C.ローズの「32のエチュード」。その第1番は、基礎的な技術から音楽的な歌い方まで、多くのエッセンスが凝縮されています。今回は第1番の「後編」として、曲の中盤から終わりにかけての重要ポイントを深掘りします。単に楽譜通りに吹くだけでは得られない、プロの解釈とテクニックを余すところなく解説します。転調による色彩の変化や、歴史的背景に基づいた装飾音の扱いを学び、あなたの演奏に魂を吹き込みましょう。
Bセクション:短調への転調とドラマチックな表現
曲の構成上、Bセクションは大きな転換点となります。明るい変ロ長調から、実音でト短調(クラリネットではイ短調)へと転調し、音楽は一気に険しさと深みを増します。ここでは、イメージをガラッと変え、暗く内省的な響きを作ることが求められます。特に2小節目のヘアピン(マツバ)のような強弱記号は、単なる音量の変化ではなく、感情の起伏として捉えてください。18小節目で一度開放的な広がりを見せた後、20小節目に向けて再び暗い影を落としていく。このドラマチックな色彩の変化こそが、クラリネット奏者としての表現力の見せ所です。
テクニカルな難所:指使いと音程の管理
- 20小節目のドは左手で押さえ、次のレ#を右手で準備する替え指の練習を行います。
- 再現部のラシラシのトリルは、サイドキーの一番上を活用し、安定した音程を保ちます。
- ドルチェのセクションでは、非和声音(イオン)の「ぶつかり」を意識し、解決する際の緩和を楽しみます。
- 再現部のピアニッシモは、冒頭のメロディに対する「エコー(残響)」のように繊細に演奏します。
後半部分には、クラリネット特有の運指の課題がいくつか登場します。例えば、20小節目の冒頭の「ド」の音。これを左手で取らなければ、その後の「レ#」への移行がスムーズにいきません。「迷う指使いはすべて楽譜にメモしておく」ことが、本番でのミスを防ぐ鉄則だと動画内では説きます。また、オクターブの跳躍がある箇所では、広い音程の間にあるすべての半音を頭の中で歌うイメージを持つことで、音がぶら下がったり、薄っぺらくなったりするのを防ぐことができます。技術は常に音楽的なイメージとセットで磨いていきましょう。
クラリネットで音楽の深淵を探求する
33小節目からの「ドルチェ」のセクションは、この曲の最も美しい場面の一つです。ここで動画内で強調されているのは、「イオン(アポジャトゥーラ)の痛み」です。和音とぶつかる音をあえて強調し、そこから解決する際の心地よさを表現する。これこそが、クラリネットという楽器で音楽を「歌う」ということです。単にメトロノーム通りに吹くのではなく、音楽的な重心の移動に合わせて、わずかにリズムを揺らす(ルバート)勇気を持ってください。楽譜通りに吹くことの真意は、音符の奥にある作曲家の意図を読み取ることにあります。
まとめ
ローズのエチュードは、単なる練習曲の枠を超えた「音楽の教科書」です。吹き方次第で、それは基礎練習にもなれば、バッハのパルティータに匹敵する芸術品にもなります。「演奏家次第でどんな曲も名曲になる」という言葉を胸に、1つ1つの音符、1つ1つの休符に込められた意味を考え抜いてください。今回学んだ高度なテクニックと表現の視点を武器に、ローズが描いた豊かな音楽の世界を、あなたのクラリネットで自由に描き出していきましょう。継続的な探求こそが、真のアーティストへの道です。